幼女でも作れるテスラコイル(DRSSTC)

ご無沙汰しております.タマゴさんです.
高専を卒業してから単位に追われることもなくなり,今は社会人一年目として悠々と生活しています.
会社が西日本にあるため,実家から離れ木造平屋一戸建て(家賃激安)で一人暮らししています.

学生時代にも作っていたテスラコイルですが,社会人となった今の財力と技術力をもとに再び作ってみることにしました.自宅は学校ほどの広いスペースはなく,また近所への騒音などを考慮することから,今回は放電長(パワー)よりも信頼性を重視しました.

あまりに製作過程が多いため,定性的にざっくり紹介していく感じなのでご承知おきください.ほとんど写真集みたいな記事です.

設計思想

今回製作するテスラコイルはDRSSTC(二重共振半導体テスラコイル)であり,以下のような設計に基づきます.

  • 大きさは高さ1mくらい
    以前作ったものは1.7mくらいでしたが,今回は一般家庭サイズということでこれくらいとしました.
    二次コイル長は500mmほどで,筐体とトロイドを含め1mくらいとなります.
  • 共振周波数は100kHz程度
    使用するIGBTによりこれくらいのスイッチング周波数が限界かと感じます.
  • 冷却はちゃんとする
    IGBTの強制空冷はもちろんのこと,共振コンデンサと一次コイル・二次コイルの冷却も施します.一次コイルには銅管を使用するため水冷が適しています.二次コイルもそれなりに発熱し,焼損することもあるようなのでコイル中に空気を流すことで強制空冷をします.(正直そこまでしなくてもいい気がします)
  • テスラコイル本体の電源は直流給電
    本体(筐体中)に整流回路が設けられることが一般的だと思われますが,力率補正・昇圧を含む整流回路を搭載するとなると回路が肥大化し,筐体中に収めることが困難になってきます.
    熱設計的にも一カ所に集約することが厳しいため,整流を担う電源回路(コンバータ)は外付けすることにします.直流電圧は150~300Vとします.

各回路基板の製作

コンバータとテスラコイル用の回路基板を設計,製作します.

制御回路とゲートドライバ用のDC-DCコンバータ基板です.DC150~300Vの入力を絶縁しつつ低い電圧に変換します.コンバータとテスラコイルの両方に使うため各2枚ずつ作ります.
回路構成はMOSFETを使ったリンギングチョークコンバータです.

当然ですがトランスは自分で巻いて製作しました.

ゲートドライバ基板です.一つの基板で1アームを駆動し,コンバータとテスラコイルで各4つ使います.


高速フォトカプラにより信号を絶縁しており,出力のピーク電流は52Aまで対応しているため,大きなIGBTでも高速で駆動できます.オフ時は負電圧を出力し,誤点弧を防止します.
また,コレクタ電圧を検出することによる過電流保護を搭載していますが,テスラコイルの方では過電流保護の応答に比べてスイッチング周波数が高すぎて殆ど意味を為さないため,コンバータでしか使いません.
(GDTというゲートドライブ用のパルストランスを使う例ではデッドタイムの調整が困難であると考えられます.またリーケージによるゲート配線中のインダクタンスが増加し,リンギングの増加,スイッチング速度の低下にも繋がりやすいため,GDTの使用はあまりお勧めできません.)

コンバータ用の電流センサ基板です.ホール素子を使った磁気平衡式の電流センサを使っており,60Aまでを高精度に検出できます.

コンバータ用の制御回路です.STM32マイコンを使っています.

テスラコイル用の制御回路です.これに関してはうまく動いてくれる自信があまりなかったため,プリント基板ではなくユニバーサル基板で製作しています.広く一般的に知られているDRSSTCの制御回路(Steve氏のもの?)とは大きく異なり独自に開発したもので,超高速コンパレータを使っており結構シビアな回路ですが,結果的にうまく動いてくれました.

テスラコイル用の補機用インバータです.補機とは冷却に使うACファンやポンプのことです.前述の通りテスラコイルの電源は直流であるため,これら交流モータの機器を動かすにはインバータが必要になります.LCフィルタを含むPWM方式の単相正弦波インバータとなっています.定格容量は100VAです.

コンバータの製作

交流電源の力率を1に制御しつつ150~300Vの任意の直流電圧が得られる,単相PWMコンバータを製作します.
制御の設計・シミュレーションをします.基本的なことは前回の記事をご覧ください.

今回は前回の記事での制御を大幅に改良し,仮想軸電流ベクトル制御を実装してみました.
ベクトル制御は三相モータ制御でよく知られていますが,三相電力変換器の電流制御方法で一般的に利用されます.ベクトル制御の利点は,交流を直流とみなすことで,内部モデル原理により極を原点に一つだけ持つ制御器で定常偏差をゼロにできることにあります.
しかし,自宅は動力の契約はしておらず,電源は単相であるため,通常のベクトル制御を適用することができません.

ここでは二相交流を制御対象とし,実際の電源の単相に加えてもう一相分のモデルをマイコン内で作り,仮想的にベクトル制御を実現しています.電源電圧の一相分(α軸電圧)のみから位相角,角周波数,β軸電圧,dq軸電圧を得ることができるSOGI(二次一般化積分器)ベースPLLと,仮想的なβ軸電流を演算するFAE(仮想軸エミュレータ)により構成されています.

制御システムのシミュレーションを試した様子です.いい感じに制御できています.

IGBTのブリッジ回路を製作します.

実際に回路を組み合わせ,動作確認をします.

盤のキャビネットを発注します.(ミスミで発注しましたが個人の客はNGなようです.絶対に真似をしないでください.今回だけは注文に応じて頂けましたがもう二度としないでくれとのことで垢BANされました.盤だけにw)

発注した盤が届いたので機器を組み付けていきます.

完成したコンバータ盤

富士電機製の機器が多いように見えるのは気のせいです.

動作確認です.充電時の電圧が不足していたり,過電流が検出されたりすると自動的に停止します.
起動時の突入電流を防止するための初期充電と,停止時の残留電荷の放電は,リレーやタイマなどのシーケンス回路により動作しています.

盤内の機器の解説です.

高周波インバータの製作

テスラコイルを駆動する高周波インバータを組み,正常に発振するかを確認します.
IGBTのブリッジ回路です.電解コンデンサはIGBTにできるだけ近いところに設け寄生インダクタンスを小さくするようにします.

回路を組み合わせ,共振周波数が100kHzくらいになるような適当なLC負荷を繋ぎます.

連続モードで動かすので,電圧と電流の位相差(力率)を絞った上で動作確認します.

発振したのでOKです(適当)

IGBTは2MBI300VH-120-50で実験しましたが,後に高速タイプである2MBI200HH-120-50に変更しました.

共振コンデンサの製作

共振コンデンサには一般的にDRSSTCではよく使われるCDEの942Cを使います.一つあたり耐圧2kVの0.15μFで,3シリ6パラとして6kV0.3μFにします.

各コンデンサに均等にかつ短い経路で電流が流れるよう,銅の円板を使い円柱状にコンデンサを取り付けます.

円柱状の管でコンデンサを覆い,ファンを取り付けて強制空冷します.

二次コイルの製作

VU100の塩ビパイプを用意しました.共振周波数を100kHzとし,1/4波長の巻取り長とすると2100回ほど巻く必要があるようです.銅線はAWG31のPEWを使います.

コイル巻き器としてIPMSMと自作VVVFインバータ(センサレスベクトル制御)を使いました.(パワエレ工作に活用するパワエレ工作)

巻き終わったらエポキシを塗布し,完全に硬化するまで回転させ続けます.

エポキシが硬化したら同じ長さのVU50のパイプを中に入れ,3Dプリンタで印刷したキャップを取り付けます.

二次コイルの接地側には円形に切った銅板を貼り付け,これを接地極とします.筐体側にも電極を設け,二次コイルを筐体の上に置くだけで接地されます.一部にスリットが入ってるのは誘導電流が流れにくくするためです.

二次コイルの放電側にはM16のボルトを取り付け,アルミダクトで作ったトロイドを固定します.

筐体・一次コイルの製作

筐体の枠組みはアルミフレームを使います.組立が容易であり丈夫で便利なアルミフレームですが,導体ですのでテスラコイルの筐体に使うには注意が必要です.筐体の上面の辺にはアルミフレームは取り付けず,余計な誘導電流が流れないようにします.(アルミフレームの表面はアルマイト処理されているから電流は流れないのでは??と思うかもしれませんが,組み立てるとフレーム間でも大抵導通します.)

一次コイルの支持など,絶縁と耐熱を要する箇所にはベークライトの板を使用します.

Φ6.35mmのなまし銅管5mで一次コイルを製作します.水冷することもあり銅管の末端は下に曲げて基礎板を貫通させています.

一次コイルと共振コンデンサの間のノードは非常に高い電圧となります.二次コイル間との絶縁を確保するには,一次コイルの共振コンデンサに接続される側が外側になるようにします.また,一次コイルを支えるアルミフレームとは碍子を介して固定し,アルミフレームとの絶縁距離を確保します.(正直ここまでする必要は無いと思います)

また,ストライクリングと一次コイルとの絶縁距離も十分に確保した上で,ストライクリングを碍子で固定します.

一次コイルを冷却する水回路を組みます.冷却水回路は次のような構成となります.

冷却水には導電率が低い精製水を使います.また,一次コイルと対地間との漏れ電流を小さくするため,ポンプやラジエータと一次コイルの間のホースはなるべく長めにします.

二次コイルを冷却するためのファンを取り付けます.わざわざファンを垂直に付けているのはファンに誘導電流が流れにくくするためです.
ダクトは3Dプリンタで作ったものです.ダクトの上面に,二次コイルの底面が接触するように接地極を設けます.

筐体の底面の基礎に機器を取り付けていき,配線していきます.

ゲートドライバとIGBTを接続する配線はツイストした上でできるだけ短くします.

共振コンデンサの一方の極はブスバーによりIGBTに接続され,もう一方の一次コイルに接続されるノードは高電圧となるため碍子により周辺との絶縁距離を確保して固定します.

インターフェースの面です.

左側のランプは上から順に電源,インタラプタ信号入力,過電流検出を示します.右下は操作信号を入力するコネクタです.一般的にはインタラプタの接続にはBNCコネクタなどが使われることが多いようですが,今回はインタラプタの電源を本体から得るほか,力率の指令値も入力できるようにするため,多数の配線が接続できるようなDINコネクタとしました.

組み立てられた本体部分の外観です.

全体像

機器の解説です.

調整

高周波インバータの矩形波電圧と共振電流との位相差(力率)を調整します.それぞれの位相を完全に一致させようとするのではなく,矩形波電圧を若干進ませることがポイントです.これにより,還流ダイオードに電流が流れている間にIGBTのターンオンができるためZVSとなり,かつ還流ダイオードのリカバリ電流による損失やサージを抑制することができるため,IGBTが破壊しにくくなります.
デッドタイム中にIGBTの出力容量の充放電が完了した後,還流ダイオードに電流が流れ始めるため,十分なデッドタイムを設けるようにします.原理的にはLLCコンバータと同じです.
ただし,ターンオフ時は寄生インダクタンスによるサージが発生しやすく,またIGBTの出力容量を急速に充電しハードスイッチングとなるため,矩形波電圧と共振電流の位相差を大きくしすぎてはなりません.

一次コイルの巻き数を変えることで周波数を調整します.一次コイルに与えたエネルギーが効率よく二次コイルに伝搬するような点を探し,整合させます.次のように振幅が振動的な挙動の場合,一次コイルと二次コイルの間でエネルギーが往来しているということであり,整合できていません.この場合は二次コイルと比較し一次コイルの共振周波数が低すぎる可能性があります.

次のように振幅が単調に増加している場合,うまく整合がとれているか,または二次コイルと比較し一次コイルの共振周波数が高すぎる可能性があります.

周波数を変えると力率も変わり,力率を変えると周波数も変わるため,それぞれを何度か繰り返して調整していきます.
波形により整合できているかある程度判断できますが,これが放電長に直接寄与するわけではないようです.
放電具合の様子を見ながら調整することも必要となると思います.

動作確認

適当に作ったインタラプタです.

直流電圧を300Vとして動作させてみた様子です.放電長は1mほどです.


負荷を高めすぎるとコンバータが電源供給を遮断します.

MIDIインタラプタも適当に作ってみました.前作とは違いSTM32マイコンによるものです.

まとめ

6年ぶりにテスラコイルを作ってみました.独自性が多く含まれていますが,良好な動作ができるものを作ることができ,今まで得た技術を十分発揮できたと思います.大きな負荷を与えたり長時間動かし続けてもIGBTは壊れていないため,それなりに信頼性は確保できたのではないでしょうか.
作ったところで文化祭などはもう存在しないので,実演や展示の機会が無いということに気づいて悲しくなりました.

おまけ

高周波インバータの力率を音声信号で変調し,連続モードで動作させるとスピーカになります.

幼女でも作れるテスラコイル(DRSSTC)” に対して7件のコメントがあります。

  1. 匿名 より:

    ゲートドライバ回路の回路図ってありますか?

    1. タマゴさん より:

      あります.
      https://eleken.jp/wp-content/uploads/2023/02/GDU-1.pdf
      この回路図ではPWMコンバータのものになってますが,過電流保護関係の回路を除去し出力抵抗(ゲート抵抗)を0Ωにしたものがテスラコイルのゲートドライブ回路になります.

      1. 匿名 より:

        ありがとうございます!!!
        ところでこれってMOSFETにも使えますか?あと基板のガーバーファイルもあると嬉しいです。

  2. まなお より:

    テスラコイルで充電(?), 回生(?)動作はできますか?
    高周波インバータをコンバータにして直流リンクを制御するイメージです。

    1. タマゴさん より:

      共振周波数を一致させたテスラコイル間の送電として、原理的にはCLLLCコンバータと同様の動作で可能かと考えられます

      1. 匿名 より:

        テスラコイルの共振周波数と同調した大気中の電磁場からエネルギーを取り出すことも可能なのかなと思いました。
        ありがとうございます。

  3. 匿名 より:

    すごい。

    家でやってるところ見て笑っちゃった

コメントをどうぞ

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください