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幼女でも作れる絶縁型DC-AC正弦波インバータ

お久しぶりではないです。タマゴさんです。

そういえば最近退寮したんですよ。3年半に渡る寮生ライフが終了しました。退寮した理由はここに書くと割りとヤバそうなので詳しくは書きませんが、寮務主事の先生から、オフ会みたいに「タマゴさんですか?」と訊かれたので察してください。

本題です。

全国のパワエレ大好き女子小学生向けに、簡単な電子工作を紹介します。バッテリーなどの直流(DC)12Vを、商用電源のような交流(AC)100Vに変換する、DC-ACインバータを作ってみました。コンセントを必要とする電化製品を、クルマのシガーソケットからの電源や、ソーラーパネルなどで動かすことができるようにするようなアレです。

1. 原理・考察

1-1. 全体構造

インバータの基本動作については、まずはこちらの基礎知識編をご参照ください。

三角波比較によるPWMを使い、正弦波出力が可能なインバータを作ります。単相交流を出力するので、4つのスイッチを用いたフルブリッジ回路を構成します。

また、直流12Vという低い電圧を入力とするので、それを昇圧する回路も必要です。交流100Vを出力するので、フルブリッジ回路の電源電圧は交流瞬時電圧の最大値、すなわち実効値(100V)の√2倍の141V以上まで昇圧する必要があります。そして、負荷の大きさによって出力電圧が変動しないように、出力電圧を常に監視しながら自動的に調節するような制御回路も必要です。
さらに、安全性の配慮や、コモンモードノイズ対策の面から、入力と出力の間を電気的に絶縁させることにします。昇圧回路には複巻きのトランス、電圧を安定させるための制御をする情報の伝達にはフォトカプラを使用します。以上をまとめると次の3点が重要な構成要素となります。

  • 12Vを141V以上に昇圧する回路(昇圧コンバータ)
  • 直流を交流に変換するインバータ回路
  • 入出力間を絶縁

1-2. 昇圧コンバータ回路

まず、代表的な昇圧回路である非絶縁型昇圧コンバータ回路(昇圧チョッパ回路)を以下に示します。

簡単に動作原理を説明します。
スイッチがオンになると、コイルに電源電圧(入力電圧Vin)が直接加わり、電流が増加していきます。このとき、コイルにはエネルギーが蓄えられていきます。

スイッチがオフになると、コイルに流れていた電流がそのままの大きさで負荷側に伝わろうとします。すなわち、コイルに蓄積されたエネルギーを開放します。
スイッチがオンになっていた状態よりも電流が流れる経路の抵抗が増加するので、結果的に負荷抵抗に加わる電圧(Vout)が高くなります。

すなわち、定電圧源とコイルの組み合わせから、定電流源を作り、スイッチで短絡を開放を繰り返して出力電圧を調整しているようになっています。等価回路を以下に示します。

このように、昇圧チョッパは定電流源を利用したコンバータなので、電流型コンバータと呼ばれています。
また、スイッチをオン、オフする時間の割合によって、出力電圧を調節することができます。スイッチの通流率(デューティ比)を D とすると、入出力電圧の関係は次のようになります。
$$\frac{V_{out}}{V_{in}}=\frac{1}{1-D}$$$$V_{out}=\frac{1}{1-D}V_{in}$$
そして、これを入出力間を絶縁したものがこちらです。

トランスを追加し、フルブリッジで駆動するものですが、他にもプッシュプルで駆動するタイプもあります。動作原理を説明します。 まず、すべてのスイッチをオンにし、コイルに入力電圧を印加し、エネルギーを蓄えます。

図のようにスイッチが切り替わると、コイルに蓄えられたエネルギーが解放され、トランスの一次側に電流が流れ込み、二次側に伝達されます。

再びすべてのスイッチをオンにし、コイルにエネルギーを蓄えます。

図のようにスイッチを切り替えると、先ほどとは逆方向の電流がトランスの一次側に流れ込み、二次側に伝達されます。

これらの動作を繰り返します。トランスを両側から交互に電流を流すことによって伝達するため、励磁方向に偏りが生じず、小さいコアでもある程度大きな電力まで対応できます。 この方式のコンバータは、電流型フルブリッジコンバータとよばれています。昇圧チョッパ回路が元となっている回路ですので、大電力かつ昇圧に向いた絶縁型のコンバータです。
入出力電圧の関係は、昇圧チョッパ回路の式にトランスの巻き数比(N2/N1)が掛けられた形となります。このとき、通流率(デューティ比) D は、コイルにエネルギーを蓄積する時間(スイッチをすべてオンにする時間)と、トランスで電力を伝達する時間の比です。
$$\frac{V_{out}}{V_{in}}=\frac{1}{1-D}\frac{N_2}{N_1}$$$$V_{out}=\frac{1}{1-D}\frac{N_2}{N_1}V_{in}$$
今回のDC-ACインバータの製作には、この電流型フルブリッジコンバータを用いることとします。

1-3. 正弦波発振回路

正弦波を出力するインバータなので、そのための元となる信号である正弦波を生成する発振回路が必要です。有名な正弦波発振回路のひとつであるウィーンブリッジ発振回路を以下に示します。


この回路は、オペアンプによる非反転増幅回路と、抵抗とコンデンサによるバンドパスフィルタをループ状に組み合わせた回路となっています。

この回路の発振条件について求めてみましょう。
まず、バンドパスフィルタの入出力電圧の関係を求めると、

$$\frac{v_o}{v_i}=\frac{1}{\left(\frac{1}{j\omega C_1}+R_1\right)\left(j\omega C_2+\frac{1}{R_2}\right)+1}=\frac{\left(\frac{R_1}{R_2}+\frac{C_2}{C_1}+1\right)-j \left(\omega R_1 C_2-\frac{1}{\omega R_2 C_1}\right)}{\left(\frac{R_1}{R_2}+\frac{C_2}{C_1}+1\right)^2+\left(\omega R_1 C_2-\frac{1}{\omega R_2 C_1}\right)^2}$$
となります。
入出力の位相のずれが0のときが発振条件となりますので、虚部が0となります。したがって、
$$Im\left[\frac{v_o}{v_i}\right]=-\frac{\omega R_1 C_2-\frac{1}{\omega R_2 C_1}}{\left(\frac{R_1}{R_2}+\frac{C_2}{C_1}+1\right)^2+\left(\omega R_1 C_2-\frac{1}{\omega R_2 C_1}\right)^2}=0$$$$\omega R_1 C_2-\frac{1}{\omega R_2 C_1}=0\tag{1}$$$$\omega=2\pi f=\frac{1}{\sqrt{R_1 R_2 C_1 C_2}}$$
となり、発振周波数は、
$$f=\frac{1}{2\pi\sqrt{R_1 R_2 C_1 C_2}}$$
となります。
また、式(1)の条件を実部に適応すると、
$$Re\left[\frac{v_o}{v_i}\right]=\frac{\frac{R_1}{R_2}+\frac{C_2}{C_1}+1}{\left(\frac{R_1}{R_2}+\frac{C_2}{C_1}+1\right)^2+\left(\omega R_1 C_2-\frac{1}{\omega R_2 C_1}\right)^2}=\frac{1}{\frac{R_1}{R_2}+\frac{C_2}{C_1}+1}$$
となり、これがバンドパスフィルタでの減衰度になります。
安定して発振するためには、ループ利得が1となるのが条件となります。すなわち、バンドパスフィルタでの減衰を非反転増幅回路で増幅しなおし、全体の利得が1となればよいわけです。非反転増幅回路の増幅度は、

$$\frac{v_o}{v_i}=1+\frac{R_f}{R_s}$$
ですので、ループ利得の式をまとめると、安定して発振する条件は、
$$\frac{R_f}{R_s}=\frac{R_1}{R_2}+\frac{C_2}{C_1}$$
となります。 ちなみに、R_1=R_2=R, C_1=C_2=Cとして設計すると、安定して発振する条件は、
$$\frac{R_f}{R_s}=2$$
発振周波数は、
$$f=\frac{1}{2\pi R C}$$
となります。 実際にシミュレーションしてみた様子です。

理論上はループ利得を1とすることで安定した発振をしますが、実際にこの回路を組む場合は、素子定数の誤差により、このままでは安定した発振はできないので、自動的に利得を調整する回路(AGC回路)を追加する必要があります(後述)。

2. 設計

2-1. 回路全体

DC-ACインバータの全体として、以下の回路を設計しました。


この回路の構造をおおまかに図式化したものがこちらです。

入力部、制御部、出力部のブロックに分かれており、それぞれの間は絶縁されています。制御部は入出力側から絶縁されているため、外部からのノイズの影響を受けにくくなります。また、制御部のグランドをアースとします。 出力定格は最大300VAで設計しました。

2-2. 入力保護回路

逆接続入力防止回路、UVLO(低電圧誤作動防止回路)部分を以下に示します。


逆接続入力防止回路は、その名のとおり、バッテリーなどの極性をうっかり逆に繋いでしまった時の回路の故障を防ぐためのものです。入力から最大25A以上の大きな電流が流れるため、ただダイオードを挿入するのではなく、MOS-FET(2SJ673)で構成しました。ダイオードの場合に起きる、通流時のVfによる大きな損失をなくすことができます。

UVLOは、バッテリーによる電源入力を想定して搭載しました。バッテリーが消耗し、入力電圧が低下した場合も回路が動き続けることを防止します。また、バッテリーの過放電防止にもつながります。この回路は、始動時のオンする電圧しきい値と、電圧降下時のオフする電圧しきい値に、ある程度の差を持たせる(ヒステリシス特性)必要があります。バッテリーから給電している場合、徐々に電圧が低下していくと、UVLOがオフになります。しかし、オフになった途端、バッテリーから電流が出力されなくなるので、再び電圧が上昇します。この上昇により、再びUVLOがオンになると、この動作が繰り返し行われるようになり、発振または微妙なオン状態による熱損失が起こってしまいます。

つまり、バッテリーの電圧が低下しオフになった状態から再び電圧が上昇してもオンにならない程度の、オンとオフの判定をするしきい値に差を設ける必要があるのです。

この差の電圧値は、使用するバッテリーの内部抵抗×最大出力電流 以上に設定しておくとよいでしょう。
オンとオフの判定しきい値は、この回路において次のように設定できます。

$$オン電圧値=2.5×\frac{R_1+R_2}{R_2}$$$$オフ電圧値=2.5×\left(\frac{R_1 R_3}{R_2\left(R_1+R_3\right)}+1\right)$$ シミュレーションしてみた様子です。緑色のグラフが入力電圧、ピンク色が出力電圧です。入力電圧が上昇する時と低下する時で、オンとオフをする電圧値に差があるのがわかります。

2-3. 制御回路、ゲートドライバ用電源回路

制御回路とインバータのゲートドライバ用の電源回路部分を以下に示します。


フライバック方式の絶縁型コンバータを採用しました。PWM制御用ICとしてNJM2360ADを使用します。昇圧、降圧どちらも可能なので、12V~24Vの入力を16Vに安定化させて出力します。また、二次巻き線をそれぞれ絶縁された4系統出力させ、1つは制御回路用、1つはインバータのゲートドライバのローサイド用、もう2つはハイサイド用として使います。 トランスはPQ20/20を使用し、以下のように作成します。


NJM2360ADのCt端子につけるタイミングキャパシタは1000pFとし、スイッチング周波数は約30kHzとしました。また、過電流保護用のシャント抵抗として0.1Ωをつけ、3A以上の入力で出力電圧を低下させます。

2-4. 電流型フルブリッジコンバータ部

昇圧コンバータとその制御回路、ゲートドライブ回路周りです。


PWM制御ICはTL494を使用します。このICは、プッシュプルコンバータ用に、パルスを2つの端子から交互に出力する機能が付いており、このようなフルブリッジコンバータを作成する際も便利です。 フルブリッジコンバータ用のスイッチング素子であるMOSFET用のゲートドライバは、入出力間を絶縁する必要がありますが、スイッチング周波数が100kHz以上と非常に高いため、一般的なフォトカプラは使えません。そこで、高周波パルスの伝達に優れているパルストランスを用いることにしました。このようなゲートドライブ用のパルストランスはゲートドライブトランス(GDT)と呼ばれています。また、電流型フルブリッジコンバータは、1-2.で説明したように、2つの素子をオンにする状態と、4つすべての素子をオンにする状態があります。2つずつの素子を交互にオンするような駆動は、GDTが1つあれば容易に実現できますが、すべての素子を同時にオンするとなるとそうはいきません。そこで、2つずつ交互に素子をオンにするためのGDTと、4つすべての素子をオンにするためのGDTをそれぞれ別に用意することにしました。前者による動作は、フルブリッジコンバータにおいて伝達モード、後者は蓄積モードとなります。伝達モード用のGDTはフルブリッジを用いたバイポーラ駆動、蓄積モード用のGDTは一石で駆動します。通常、一石によるトランスの駆動は、トランスが偏磁するので、そのためのリセット回路(スナバ)を設ける必要がありますが、伝達モードにおけるローサイド側のMOSFETのゲートに逆バイアスを掛けるのと同時に、蓄積モード用のGDTのリセットが行われるような回路を構成しました。つまり、蓄積モード用のGDTのリセット回路は不要となります。
動作は次のように繰り返されます。
蓄積モード:

伝達モード:

蓄積モード:

伝達モード:

TL494からのパルス出力はそのまま伝達モード用のパルスとして使い、また、2つのパルス出力の否定論理和(NOR)を取ることにより蓄積モード用のパルスを生成します。ダイオードとMOSFET(2N7000)からNOR回路を構成しました。

また、電源投入時、TL494が動作を開始する前に蓄積モード用のGDT駆動用のMOSFETがオンになり、短絡状態になることを防ぐために、NOR回路に起動時の一定時間だけ信号を入力する回路も設けました。 GDTのコアは、伝達モード用にEE25、蓄積モード用にEE19を使用しました。それぞれ以下のように作成します。
伝達モード用GDT:

蓄積モード用GDT:

コンバータのパワーインダクタとトランスも作成します。どちらもコアはPQ32/30を使用しました。大電流が流れるコイルの導線はパラレルにして断面積を稼ぎます。

パワーインダクタ:

トランス:

2-5. 正弦波PWM生成回路

正弦波のPWM信号を生成し、インバータ回路を駆動するための回路です。


オペアンプで三角波発振回路と正弦波発振回路(ウィーンブリッジ発振回路)を構成し、コンパレータで比較して正弦波のPWM信号を作り出しています。

ウィーンブリッジ発振回路は、50Hzと60Hzの出力に切り替えられるようにしました。二連トグルスイッチを用いて、合成抵抗の値を切り換え、発振回路の時定数を変えています。
また、ウィーンブリッジ発振回路は、電源投入時に自動的に起動させ、ループ利得をちょうど1にして発振を安定させなければなりません。そのためには非反転増幅回路に自動利得制御(AGC)の機能を持たせる必要があります。これにはJFETと積分回路などを用いて構成するのが一般的ですが、今回はアナログフォトカプラを使って、シンプルな回路にしてみました。ブリッジダイオードで出力の最大電圧を取り出し、それに応じてアナログフォトカプラのLEDに流す電流を変え、非反転増幅回路の帰還抵抗の値を制御し、利得を調整するという仕組みです。
アナログフォトカプラを用いたAGCでウィーンブリッジ発振回路を組んで実験してみた様子です。

アナログフォトカプラに直列に挿入する抵抗は、この実験で最も発振が安定する値を選定しました。アナログフォトカプラの個体差によって、適切な抵抗値が大きく異なる場合があるので、あらかじめ実験しておくとよいでしょう。 三角波発振回路での発振周波数が、PWMの周波数、すなわちインバータのフルブリッジの素子をスイッチングする周波数となります。あまり高すぎると効率が下がり、低すぎると出力部のローパスフィルタ(後述)に大きな値の素子が必要になります。今回は18kHzで設計しました。三角波発振回路を設計するための計算については、こちらの2-2. をご参照ください。 PWM信号を作り出した後、インバータのフルブリッジにおける貫通電流を防ぐために、デッドタイムを挿入する回路を通します。

2-6. インバータ、出力部

インバータのフルブリッジ、出力のローパスフィルタ部分です。


ゲートドライバは入出力間絶縁用にフォトカプラが内蔵されているTLP250を使用しました。ローサイド用に1つ、ハイサイド用に2つの絶縁電源が必要で、フライバックコンバータから供給しています。 フルブリッジからはPWM化した正弦波が出力されるので、これを元の正弦波に直すために、コイルとコンデンサで構成されたローパスフィルタ(LPF)を通して出力します。これにより、スイッチング周波数の成分は除去され、50Hz/60Hzの正弦波が出力されるようになります。

2-7. 基板実装パターン

ユニバーサル基板に以下のように実装します。
表面:

裏面:

大電流が流れる入力側の配線は太くします。 灰色の線は、絶縁区間を表しており、以下のようにそれぞれのブロックが分かれています。

3. 製作

まず、トランス、パワーインダクタを作ります。







基板に部品を実装していきます。




完成した基板:

裏面:

コンバータのゲートドライバ周り:

入力部分、フライバックコンバータ:

インバータ部、発振回路周り:

4. 動作確認

周波数切替スイッチ、コンセントタップ、バッテリーを接続します。50Hzのみの場合は周波数切替スイッチを付ける必要はありません。



発振回路部分の正弦波ゲイン調整用の半固定抵抗を回し、出力電圧がAC100Vとなるように調節します。

出力波形です。正弦波が出力していることがわかります。

デスクトップパソコンを動かしている様子

5. まとめ

コンセントが必要な電化製品を、12V出力のバッテリーを電源として動作させることができました。昇圧し、交流に変換するという回路構成ですが、スイッチング電源が内蔵される製品が増えてきているこの御時世、交流でなくても動く製品も多いと思います。すなわち、DC-ACインバータという名目でも、交流に変換することよりも昇圧するということのほうが重要な機能となります。

今回、昇圧回路に電流型フルブリッジコンバータを使用してみましたが、実際にこの方式のコンバータが製品に利用されるのは極めて稀なようです。製品のDC-ACインバータの回路も、これと大きく異なるものが多いと思われます。電流型コンバータは、2段階で昇圧するような動作をしますので、トランスだけで大きな昇圧はせず、巻き数比を極端に多くする必要が無いので、トランスの自作が比較的容易なことから、この方式を採用してみました。

参考文献

平地克也 (2010) 電流型 DC/DC コンバータについて – 平地研究室技術メモ
http://hirachi.cocolog-nifty.com/kh/files/20100228-1.pdf

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